スースダイ、アサノです。
前回までのあらすじ、無力感①無力感②
数日後、リアップが話がある、と僕を呼び出しました。
僕は「明日帰らなければならない」など、急展開が待っているのでは、
と不安を抱きながら、彼女の元へ向かったのです。
彼女はどこかスッキリした顔で、そこに居ました。
彼女はひと呼吸置き、切り出しました。
「私はこの婚約を断ります。
 私は今まで、自分で大きな決断をしてこなかった。
 でも今回は違います。
 これが今の私が導きだせる最良の答えです。
 きっともう私は故郷に帰ることは出来ないと思います。
 11月の水祭りも、プノンペンで過ごす事になると思う。
 でも、それでも、私は私の人生を生きます」
そう活き活きした明るい顔で、彼女は語ってくれました。
僕はカンボジアの時代が動く音を聞いた気がしました。
そして、新しい時代の幕開けを目の当たりにした気分になり、
リアップをとても誇らしく思います。
その翌日、彼女はまた目を腫らせ、そこに居ました。
まずその男性に電話で婚約を破棄したい旨を伝えた、と。
すると「もう友人に伝えてしまっているのに、なんて事だ。
僕は何も言えないから、直接リアップのおばさんに伝えてくれ」
と言われ、そしてその後おばさんに電話したのです。
するともう激高、そして号泣。
でも話を聞くと、リアップの幸せについて激高しているのでも、号泣しているのでもない。
”私の立場” ”世間体” を気にしての激高と号泣のように思えました。
もちろん、そう思うのも、間違いではないのだと思います。
そして、おばさんから破棄するのであれば、
明日、式場のキャンセル代、結納の際に撮った写真代、破棄に対する償いなどを含め、
800ドルと婚約指輪を持ってきなさい、と言われたのでした。
リアップにその800ドルを払ってでも、破棄したいのか確認すると、
「はい」と大きく頷くのでした。
彼女の決意は固いもののように思えました。
お金の足りない分に関しては、
僕が貸す事にし、今後給与から毎月返済していく事も決まり、
そして彼女は「今日中か明日朝には帰る」と言い残し、
コンポンチャムに向かったのでした。
つづく